広視野高速CMOSカメラが本格始動 ー BOK望遠鏡で観測開始 ー
2025年9月にファーストライトを迎えた「広視野高速CMOSカメラ」が2026年1月、本格的な観測を開始しました。
アリゾナ大学スチュワード天文台のBok望遠鏡主焦点に搭載された広視野高速CMOSカメラ(左端の銀色の箱)
参照:X-1 山頂に到着、X-2 望遠鏡に搭載、X-3 ファーストライト
純日本製のオリジナル天文用高速カメラ
このカメラは国立天文台と法政大学を中心とする装置開発グループが、先端技術センター内で開発を進めてきた純日本製のオリジナル天文用カメラです。焦点面には、浜松ホトニクス株式会社と国立天文台が共同開発した2560 x 10000 ピクセル(画素サイズ:7.5 マイクロメートル / ピクセル)の大型の可視光CMOSセンサーが1列に6枚並んでいます。総画素数は1億5千万画素。視野はかつて”すばる望遠鏡”で活躍した主焦点(注1)カメラ Suprime-Cam(視野 0.57 x 0.45 平方度)を上回る1.06 x 0.63 平方度を確保しています。読出速度はフルフレーム(注2)で1秒間に10枚、部分読出しでは1秒間に1000枚と非常に高速です。従来の同サイズの天体観測用CCDが15~20秒かけてゆっくり読み出していることと比較すると100倍以上の高速化を実現したことになります。これは画素の各列に出力アンプとアナログデジタル変換器(ADC)を搭載する構造によって可能になりました。
この高速読出し性能により、本カメラは、高い時間分解能(注3)を必要とする観測において大きな威力を発揮します。
望遠鏡に搭載直前のCMOSカメラと焦点面の6枚のCMOSセンサー
BOK望遠鏡
アメリカ合衆国アリゾナ州にあるキットピーク国立天文台には、アリゾナ大学スチュワード天文台が所有する口径2.3mのBok望遠鏡があります。この望遠鏡は主焦点に観測装置を載せられる数少ない望遠鏡の一つであり、補正光学系やフィルター交換機構、焦点調整機構などを備えています。Bok望遠鏡への搭載を目標としてカメラを開発することは、将来すばる望遠鏡の主焦点撮像装置にCMOSセンサーを採用するための重要なワンステップとなります。
アリゾナでの組立・調整を経てファーストライトへ
カメラは2025年8月、モンスーンの影響が残るアリゾナのキットピーク国立天文台に向けて出荷されました。現地での組立・調整を経て、同年9月にアリゾナ大学スチュワード天文台が所有する口径2.3mのBok望遠鏡の主焦点に搭載されファーストライトを迎えました。
純日本製のカメラはCMOSセンサー、専用読出しエレクトロニクス、デュワー(真空断熱容器)、冷却装置、温度コントローラや真空ゲージなどの周辺機器、画像取得用計算機・データ転送用ネットワーク機器とデータ保管サーバーで構成されています。エレクトロニクスは、東京大学国際高等研究所のカブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)の高橋研究室とシマフジ電機株式会社で開発されたSPMU002を基盤とし、デュワーは天文台の技術者と研究者で設計したものを先端技術センター製造設計グループ所有の5軸マシニングセンターで内製しました。観測アプリや読出しプログラムは、天文データーセンターの技術者による開発です。法政大学の学生達も参加し、カメラの状態をモニターするための温度コントローラや真空ゲージなどの周辺機器を設置するフレームの設計と組立、そして周辺機器データの取得を担当しました。
大フォーマットで高速読出しのCMOSセンサーは大量のデータを生成します。フルフレームで最速モードの10 fpsで読みだすとセンサー1枚当たり500 MB/s、カメラ全体だと3GB/sになります。この大量のデータを高速で取り扱う必要があるため、ネットワークとデータストレージ機器の選定には大きな苦労が伴いました。
1月の観測で多数の画像を取得
ファーストライト時は天候が不安定で観測は数時間程度でしたが、2026年1月の観測では天候が安定し、多くの画像取得に成功しました。現在私達はこれらのデータを用いてカメラの性能評価や観測天体の解析を進めており、高速読出し性能を活かした観測データがどのような結果をもたらすか、チーム一同大きな期待を持って解析に取り組んでいます。
世界の潮流とCMOSセンサーへの期待
先端技術センターで開発され、2014年よりハワイ観測所で共同利用観測を開始したすばる望遠鏡超広視野CCDカメラ Hyper Suprime-Cam (HSC) は、1200平方度におよぶ広範囲な天域を今までにない深さで探査し、現在も世界最高水準の観測データを提供し続けています。一方、近年の米国・欧州の広視野探査計画の急速な進展や重力波光学対応天体の観測成功により、時間変動をする天体への注目が高まっています。
CCDは電荷転送を必要とするため高速化に限界があり、高速読出しが可能なCMOSセンサーへの移行は、世界的な流れになってきています。2017年に始まったCMOSセンサー開発は、改良を重ね、2026年1月の本格観測という説目を迎えました。
広視野かつ高速という特長を併せ持つこのカメラが、今後どのような新しい天文学的成果をもたらすのか、国内外の研究者から大きな期待が寄せられています。
月を望遠鏡の視野中心にポインティングするときに10 fpsで読み続けながら取得した画像をつなぎ合わせて動画にしたもの。月は約‐12.7等級なので蓄積(積分)時間は0.1ミリ秒と短い。中心付近で止まった時の月の揺れは、所定の位置で止まった望遠鏡の揺れを示している
用語説明
注1. 主焦点 反射望遠鏡の主鏡で集めた光が直接結ばれる焦点位置(主鏡の第一焦点)。スチュワード天文台のBok望遠鏡やハワイ観測所のすばる望遠鏡では望遠鏡の上部に位置している 参照:天文学辞典 "主焦点”
注2. fps (フレーム毎秒) 1秒あたりの画像取得回数
注3. 時間分解能 時間の細かい変化を見る指標。小さい値ほど性能が高い 参照:天文学辞典 ”時間分解能
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